警視庁公安部(けいしちょうこうあんぶ)は、警視庁の内部組織の一つ。公安警察を所掌する。

概要

警視庁公安部は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の人権指令により廃止された警視庁特別高等警察部の後継組織とされる。

日本の公安警察は警察庁警備局の指揮下で活動しているが、中でも警視庁は唯一公安部を置いており、所属警察官約1100人を擁し、最大規模の公安警察官を抱えている。

一方、道府県警察本部の公安警察は、警備部に「公安課」として設置されている。所轄警察署では警備課に公安係・外事係を設置することがある。

沿革

  • 1945年(昭和20年)9月8日:占領軍の対敵諜報部隊(CIC)が、警視庁特別高等警察部を臨検。
  • 1945年(昭和20年)10月4日:GHQの「人権指令」に基づき、警視庁特別高等警察部が廃止される。
  • 1945年(昭和20年)12月19日:警視庁に警備課を設置。
  • 1946年(昭和21年)2月:警視庁警備課を公安課に改称。
  • 1948年(昭和23年)3月7日:旧警察法が施行される。警察制度は、国家地方警察と自治体警察(市町村警察)の二本立てとなる。
  • 1948年(昭和23年)3月7日:国家地方警察東京都本部に警備部が設置される。警視庁 (旧警察法)に警備交通部警備課が設置される。
  • 1948年(昭和23年)9月16日:警視庁の機構改革が行われ、警備交通部が分けられて警邏部と交通部が設置される。これにより、警備課は警邏部に置かれる。
  • 1948年(昭和23年)10月1日:国家地方警察東京都本部で、思想的・政治的背景のある集団犯罪や特殊犯罪の管轄が、警備部に一本化される。
  • 1952年(昭和27年)4月:警視庁において警備公安警察を主管していた警邏部に代わって、警備第一部と警備第二部が設置される。警備第一部は「警備実施」を主管して警視庁予備隊(機動隊)を掌握し、警備第二部は「警備情報」活動を実施することになり、公安第一課・公安第二課・公安第三課が置かれる。
  • 1952年(昭和27年)5月1日:血のメーデー事件が発生。
  • 1952年(昭和27年)11月:警視庁警備第二部に「警備情報」の整理保存に当たる警備公安資料班が設置される。ほか、警備第一部に警備指揮班を設置。
  • 1953年(昭和28年)6月:警視庁が情報活動の法的根拠に関する統一見解を研究。
  • 1953年(昭和28年)7月:警視庁は情報活動に従事する警察官に対して、「何らかの時に役に立つことがあるかも知れないから、労組やデモ隊の顔写真は1枚でも余計に撮って保存するように」との指導を行う。これにより、デモの合法・非合法を問わず、デモの参加者への顔写真の撮影とリストの作成が本格化。
  • 1954年(昭和29年)6月8日:新警察法(現行警察法)が公布される。
  • 1954年(昭和29年)7月1日:警察法の施行。これに伴い、警察庁(1官房4部17課)と都道府県警察が設置され、警察機構が一本化された。
  • 1954年(昭和29年)7月1日:国家地方警察東京都本部警備部と警視庁 (旧警察法) 警備第一部・警備第二部が再編成され、新たに警視庁警備第一部・警備第二部・警視庁予備隊が設置される。このうち、警備第二部が公安警察活動を主管。
  • 1957年(昭和32年)4月:警視庁警備第一部・警備第二部・警視庁予備隊が、警視庁警備部・警視庁公安部・警視庁機動隊に改称される。警備公安資料班は警視庁公安部公安第四課になる。
  • 2002年(平成14年)10月:警視庁公安部外事第一課の国際テロ担当を独立させ、警視庁公安部外事第三課を設置。
  • 2017年(平成29年)4月3日:警視庁公安部公安総務課のサイバー攻撃特別捜査隊を独立させ、サイバー攻撃対策センターを設置。
  • 2021年(令和3年)4月:警視庁公安部外事第二課の北朝鮮担当を独立させ、警視庁公安部外事第三課を設置。旧外事第三課は外事第四課に名称変更。
  • 2025年 (令和7年) 4月予定:警視庁公安部公安総務課のローンオフェンダー部門及び外事第四課の部門を統合し、警視庁公安部公安第三課を設置。旧公安第一課と旧公安第二課を統合し、警視庁公安部公安第一課を設置。旧公安第三課を警視庁公安部公安第二課に改称。

組織

公安総務課
庶務:庶務係(公安部内総務)
会計:会計係(公安部内予算経理)
公安企画:公安企画係(企画)、公安管理係(管理・運用)、公安法令係(法令解釈)
第一公安捜査:第1、第2係(デモ対応)
第二公安捜査:第3、第4係(反戦デモ)
第三公安捜査:第5、第6係(反戦デモ)
第四公安捜査:第7、第8係(左翼政治団体対応)
第五公安捜査:第9、第10係(テロ情報収集)
第六公安捜査:第11、第12係(テロ情報収集)
産経新聞記者の大島真生によると、日本共産党、市民活動、反グローバリズム運動、カルト、自衛隊内部の右翼的な思想を持つ隊員などを捜査対象としているとされ、日本共産党の活動が下火となったため、対象範囲を広げているという。総務課相当の業務は庶務係と公安管理係が行う。
公安第一課
第一公安捜査:第1係(課内庶務)、第2係(極左警備情報)
第二公安捜査:第3、第4係(極左情報収集)
第三公安捜査:第5、第6係(日本赤軍情報収集)
第四公安捜査:第7、第8係(極左情報収集)
極左暴力集団を捜査対象とする。極左暴力集団の縮小に伴い、近年では人員削減も行われている。
公安第二課
第一公安捜査:第1係(課内庶務)
第二公安捜査:第2、第3係(労働紛争議)
第三公安捜査:第4、第5、第6、第7係(過激派関係情報収集)
労働紛争議、革マル派を捜査対象とする。
公安第三課
第一公安捜査:第1係(課内庶務)、第2、第3係(右翼情報)
第二公安捜査:第4、第5係(右翼情報)
第三公安捜査:第6、第7係(右翼情報)
第四公安捜査:第8、第9係(右翼情報)
右翼団体を捜査対象とする。
公安第四課
第一公安資料:第1係(課内庶務、統計)
第二公安資料:第2係(資料)
資料、統計の管理を担当。
外事第一課
外事:第1係(課内庶務)、第2係(在日大使館とのリエゾン)
欧米第一:第3(欧米情報)、第4(事件)
欧米第二:第5係(事件)
主にロシア・東ヨーロッパの工作活動や戦略物資の不正輸出を捜査対象とする。また犯罪経歴証明書の発行も担当。
外事第二課
アジア第一:第1係(課内庶務)、第2係(アジア情報)
アジア第二:第3、第4、第5係(アジア情報)
主に中華人民共和国の工作活動、戦略物資の不正輸出を捜査対象とする。
外事第三課
北東アジア第一:第1係(課内庶務)、第2係(北東アジア情報)
北東アジア第二:第3、第4係(北東アジア情報)
主に朝鮮民主主義人民共和国の工作活動、戦略物資の不正輸出を捜査対象とする。
外事第四課
国際テロ第一:第1係(課内庶務)、第2係(国際テロ情報)
国際テロ第二:第3、第4係(国際テロ情報)
国際テロ第三:第5係(国際テロ情報)
国際テロ第四:第6係(国際テロ情報)
国際テロリストや、中東地域のスパイなどを捜査対象とする。
サイバー攻撃対策センター
公安機動捜査隊
隊本部(庶務係、運用係)、各班。NBCテロ捜査隊を置いている。目黒区目黒一丁目に隊本部がある。

役職

  • 部長:階級は警視監
  • 参事官(兼刑事部付):階級は警視長か警視正
    参事官は2人、うち1人はキャリア警視長
  • 課長・隊長:階級は公安総務・公安第一・公安第三課長が警視正、それ以外は警視
    公安総務課長と外事第四課長以外は近年ほとんどノンキャリアのポスト
  • 理事官:階級は警視
  • 管理官:階級は警視
  • 係長:階級は警部
  • 主任:階級は警部補
  • 係員:階級は巡査部長および巡査

歴代部長

不祥事

  • 2006年5月27日、公安第二課長がホームセンターで万引きをしていた事が判明。停職1か月の処分となったが、発表は事件から2日後の29日。課長は発表日付で依願退職。
  • 2010年10月29日、警視庁国際テロ捜査情報流出事件。外事第三課には警視庁の内部ネットワークにもつながっていないスタンドアロンのパソコンがあり、関連文書はここにも保存されていた。外部メディアを用いてここから流出させられた疑いが持たれている。
  • 2010年12月、公安第二課の巡査部長が捜査協力者との接触を装い、受け取った捜査費を女性との交際や深夜帰宅の際のタクシー代などに消費していた事が判明。懲戒免職処分と共に詐欺と業務上横領の容疑で書類送検された。
  • 2020年3月11日、外事第一課が大川原化工機株式会社の代表取締役らを外国為替及び外国貿易法違反容疑で逮捕した。代表取締役らは一貫して無罪を主張するが、保釈は認められず、その間に相談役は進行胃がんと診断され入院し、2021年2月7日に死亡した。同年7月30日、東京地検は公訴の取り下げを申し立て、裁判を終結させた。国家賠償請求訴訟で、現職の課員が「事件は捏造」と証言した。
  • 2022年5月4日、千葉県内の集合住宅の敷地内に侵入し、10代の女性に性的暴行を加えた疑いで同年10月31日に巡査部長が逮捕された。
  • 2024年6月1日、東京都内のマンションの部屋に侵入したなどとして、警視庁公安部公安総務課の巡査部長が住居侵入および窃盗未遂の容疑で逮捕された。

脚注

注釈

出典

参考文献

  • 警視庁本部の課長代理の担当並びに係の名称及び分掌事務に関する規定
  • 警視庁文書管理規定
  • 大野達三『警備公安警察の素顔』 新日本出版社
  • 警備研究会 『日本共産党101問』 立花書房
  • 大島真生 『公安は誰をマークしているか』 新潮社〈新潮新書〉 2011年
  • 青木理 『日本の公安警察』 講談社 2000年 ISBN 4061494880
  • 戒能通孝 『警察権』 岩波書店 1960年

関連項目

  • 憲法学会
  • 日本刑法学会
  • 公安警察
  • 特別高等警察
  • 警視庁国際テロ捜査情報流出事件
  • 大川原化工機事件

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